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瞳の画家
一寸先は闇とはまさにこのことだ。わずかでも遅れれば、ギルさんのたくましい背中でさえも見失ってしまう。置いてかれまいとギルさんのすぐ後ろを歩けば、不意に歩みが止まってたくましい背中に激突した。
「何で止まったんです?」
ぶつけて痛む鼻を押さえて苦言を呈せば、特に気にもしていないギルさんが目の前を指差す。
指の先には、古びた木製の扉が一枚佇んでいた。森の中を、壁もないのに自立していて奇妙だ。
明らかに怪しいのに、ギルさんは躊躇なく扉を押し開ける。
軋む音をたてて開いた扉の先、そこから見える景色に、驚いて思わず声が出てしまった。
「町?」
「絵が記憶している町並みだ。ということは、この町の中に何か重要なことが隠されているはずなんだが」
扉を跨いで町に降り立つと、足下の感覚がふわふわしていた草地から固い石畳に変わって靴音が鳴る。
やはり町にも黒い霧が立ち込めてどんよりとしていた。が、一直線に伸びる石畳の道の両脇に立ち並ぶ煉瓦造りの家々には、見覚えがあった。
「もしかして城下町ですか?」
「そうだ。歴史保存地区に指定されているから、現在もほぼ変わらない。だが、どこかに絵を修復するための手がかりがあるはずだ」
「手がかり?」
ギルさんは困ったように眉を下げて話し始めた。
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