瞳の画家

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「この絵は博物館の大規模清掃中に偶然奥から発見された。劣化も激しく既に黒霧に侵されていて、いつ崩壊してもおかしくない状態だったらしい」  黒霧に侵された絵はかなり脆くなっている。下手に触れば一瞬で塵と化してしまうから、慎重に取り扱わなければならない。絵の研究をするには、まず修復してからが鉄則だ。 「描かれた年代も、誰の作かも、絵のモデルが誰かも分からない。この絵の本当の姿を記述した文書も何もない。ただ、絵の裏には作者の直筆なのか『愛し君』と書かれていた」 「情報もないのに、どうやってこの絵を修復するんです?」 「俺をみくびってもらっちゃ困るね、フィオ」  したり顔でもったいぶるように言葉をとぎる。 「絵の中に入って作者は一瞬で分かった。ベネディクト•グリン•メリアス。聞いたことあるだろ?」 「メリアス、って。あの『瞳の画家』と呼ばれた?」  世界中にその名を知らぬ者を探すのが困難なほど、メリアスは有名画家のひとりだ。四十年前にこの世を去るまで絵筆を取り続けた。  彼を有名画家に押し上げたのは、描き出す瞳の美しさ。目は口ほどに物を言うとはまさにそうで、彼が描く瞳を見ればモデルとなった人物の感情が手に取るように分かる。
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