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水面へ戻り、ほかに浮いている空中湖を見やる。すると、いきなり、何匹もの魚が矢のように空中から現れた。
驚いてのけぞると、魚たちはばしゃばしゃと僕のすぐ脇に着水していく。どうやらトビウオのように、湖から湖へ渡っている魚のようだった。彼らは水中で勢いをつけると、また別の湖へと飛び立っていく。
僕は再び日記を開いた。おじいさんは、ここで、ほかには何を見たんだ?
日記の記述によると、おじいさんの知り合いもこうして空の上に来た人がいたらしい。その人は、クジラの群れが泳いでいるほど巨大な空中湖を見たという。
そこまで途方もないものが、空にあるのだろうか? ちょっと大げさに言っているんだろうか? なんにせよ、まだまだ知らないことだらけだ。この空は。
気がつくと、空がたそがれかけていた。
熟しすぎたオレンジと紺色が混じった模様が一面に広がっていく。
僕はそろそろ戻らなければならないと思ったけれど、どうやれば戻れるのかが分からない。
すでに遡る水柱はないし、そもそもあれは上昇一辺倒だ。日記を読み進めれば戻り方が書いてあるのかもしれないけど、それも、推理小説を終わりから読むようで味気ない。
それに。
地上に戻っても、僕は一人だ。
友達は誰もいなくなってしまった。
両親がいるといっても、親がいるということと、親しかいないというのはまるで違う。
いっそ僕がいなくなれば、もっと明るくて友達の多い、できのいい子供をもう一人作る決心がつくんじゃないか?
お父さんとお母さんには感謝しているからこそ、迷惑をかけたくなくてそんなことを考えてしまう。
別に自殺したいわけじゃない。
それなら、もうずっとここにいればいいんじゃないだろうか。
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