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いきなり、下の方で大きな音がした。
激しい夕立が降り始めたのだ、と分かった。
すると、僕のいる空中湖もそれに吸い込まれるように、下方へ流れ込み始めた。
ほどなく僕の体は――僕の悲鳴になどお構いなしで――雲の中に入り、滝のような夕立に包まれて落下した。
僕は、あらん限りの声で叫んだ。
雲の下、遠くに山が見えた。次に、空へ上がった時の逆回しのように、学校の屋上――児童館――家の屋根――そして――
地面に叩きつけられる。死ぬ。
そう思って目をつぶった瞬間、僕の意識は、ほんの一瞬途切れた。
次に目を空けた時、僕は、夕暮れの夕立の中にたたずんでいた。『逆立ち』につかまった家の角だ。
雨足は強かったけれど、天気雨よろしく空はほの明るく、オレンジ色が残っている。さっき、確かに暮れ切ったと思ったのに。
おじいさんの日記は、ビニール袋に包まれたまま、僕の手の中にあった。
空を見上げる。黒々とした雲が、紺とオレンジの空へまにまにたゆたっている。
クジラも湖も、影も形もない。
僕は傘をたたんで、雨に打たれた。空を見上げたまま、声を出して笑ってみる。
空の上で、もうなくなってしまったものにすがろうとした自分に腹が立った。
おじいさんとはきっと違って、『逆立ち』と空の湖を見た後、空の向こうへ消えてしまいたくなった自分が恥ずかしかった。
そんなことを考えていたら、雨の中で笑いたくなった。
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