【速報】全日本国民の黒髪が魔力属性によって色が変わってしまいました

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「なん、、、、っじゃこれ!!! 」 どピンクである。 目が覚めるようなどピンクである。 寝ぼけているのかと目を擦こすった。まだピンクだ。まばたきをした。いや、変わんねえ。ピンクだ。 なんど見直しても、洗面所の鏡に目にドギツイ色が映っている。 わたしの数少ない自慢であったつやつやな黒髪は、視覚的に刺激的なショッキングピンクになっていたのだ。 あわててリビングに行くと父の薄めの頭は青色に毛先だけ赤く、母のおかっぱ頭はクリーム色と黄緑のツートンカラー、兄の寝癖爆発頭は白に赤や黄色、青色がメッシュに入るカラフルなの髪の毛になっていた。みんな呆けた顔をしている。そりゃそうだ、このまま職場や学校に行くべきなのか、と。 朝のワイドショーによると、本日より日本国民全てが黒髪からカラフルヘアーに変化しちゃったらしい。 見慣れたアナウンサーが見慣れない紫や黄色の髪の毛になっており、会見をしている首相は落ち着いたブロンドで、官房長官は南国の海のようなクリアブルーの髪の毛をしていた。 「―――この不可解な現象について対策委員会を立ち上げ、原因究明を急ぎ―――」 エライ人のごちゃごちゃ装飾過多な会見によると、つまりはなにもわかっていないってことらしい。 美容師が脱色しても、染めても、色が変わらないんだとか。 窓のそとをみれば、コスプレしたときのカツラみたいな頭の人たちが駅へ向かって歩いてる姿が見えた。灰色スーツに真っ赤な髪の毛のサラリーマンは、まるでお笑い芸人にも見えるが真面目そうな顔をしている。 小学生は黄色の安全帽子を外して、お互いの髪色にキャーキャー言い合っている。色とりどりのランドセルも相まってなかなかに目が痛い。 こんな非日常なことが起きてもさすがは日本人。いつも通りに仕事に、学校に向かっているんだなあって笑えてくる。 TwitterやInstagramでも自撮りのカラフルな頭をみんなが見せつけている。なんだかんだ楽しんでるのだろう。人体に影響があるわけではなさそうだったし。 わたしも―――こんなおかしな髪色でも、学校を休む選択肢はなかった。 ★ 「夏海おはよう! ふふ、なかなかスゴイ色だね。」 「…雄大おはよ。あんたは茶色なんだ……羨ましいくらい地味だね。」 幼なじみの雄大。地味仲間。高校もクラスも同じなのでそのまま並んで歩き始める。雄大の頭は茶色に灰色のメッシュが前髪の右側に入っていた。 「よりによってなんでこんな派手色なんだろ。わたしは地味に生きていきたいのに。モブキャラの顔面なのに。」 「そうかな? 意外に似合ってると思うけど。」 「えー、似合ってないし嫌だよー。アニメでも滅多にないよ、こんな目に優しくない色! キャラじゃないし……。あーあ、目立つかなあ? 」 「みんなカラフルだから、目立ったりはしないんじゃない? 」 「そうだといいんだけど。」 ―――そうでもなかった。 確かにクラスのみんなもカラフルだったけど、ここまで目に優しくない単色ショッキングピンクはわたし一人だけだった。 教室に入ったとたんに、いままで浴びたことない視線に晒される。たくさんの好奇な目が、わたしをみてるのがわかる。 「うっわ、スッゲエ色! まっピンクじゃん。」 「マジヤベエな! ―――あいつ誰だっけ? 」 「川嶋だったっけ。一言も喋ったことないけど! 」 どこかの国旗みたいな配色の髪をした男子たちの、からかうような声。山内と仲田だったかな。名前もあやふやな関係性であるギャル男系の奴らがこっちを見てくる。 ちなみに、わたしの名前は嶋田だ。 でもわかる。地味子がこの色ってのはないよね。キャラじゃないしね。 だからってそんなに見ないで欲しいな。いや見すぎだから。 ざわざわしてるのバッチリ聞こえてるよ。 刺さる視線に縫い止められたみたいに足が動かない。 心臓がばくばくしてきた――― 「入ろう、夏海。」 たじろぐわたしの背を雄大が軽く押して、教室に入っていく。 雄大を見上げると目が優しい形になった。いつもの、雄大。 動揺したこころが水平になっていくのがわかる。 ゆっくり呼吸を整える。 わたしはいつも通りに、席に着くことが出来た。 そして、チャイムが鳴って入ってきた担任の髪の毛が、黒板と同じ配色で少し笑った。 ★ 日本国民総派手色化もしばらくはワイドショーなんかで騒いでいたけれど、一週間・10日と経つうちに話題にならなくなってきた。慣れてきたのか、カラフルが日常になってきたようだ。 わたしもいくら頭が派手色になっても、中身は地味子のままなわけで。 いつも通りにとまではいかないけど、視線は減ってきたように思う。 「いや、まだちらちらと見てるやついるよ。」 雄大はそう言う。 「えー? そうかな。単色どピンクはあんまりいないから、目に入りやすいのかな? 」 「山内とかむちゃくちゃ見てきてないか? 」 「ま、そのうちに見なくなるでしょ。」 「―――どうだか。」 教室の角でいつも通りに駄弁る昼休み。 色が変わって視線が気になってから、雄大は出来るだけ他の人から遮るような位置に居てくれるようになった。本当にいいやつ。 雄大の背中越しに中身も派手系グループが騒いでいるけど、声がそれほど聞こえない。 それにしても騒いでるけど何かあった? 少し顔を出して騒いでるクラスメイトを覗くと、スマホを片手にはしゃいでるように見える。彼らの話しとチラリと見えた画面から、とある炎上系YouTuberのことのようだ。ここ数日は、炎上系の名に恥じない髪色―――燃えるような赤と朱色の頭で話題になっていた。 「あのYouTuberに、何かあったのかな? 」 「なんだろ。あ、これかな? ―――へぇ! 」 雄大がすぐに検索すると、スマホの画面をこちらに向ける。 「え!? ゆ、指から火が出てる…?! 」 画面の中でYouTuberは―――CGを使っていないとしたら―――魔法を使っていた。 その日を境に全日本人は魔法使いになった、らしい。 ★ 髪色と使える魔法の属性には関係性がある、とその日のうちにネット上で話題になっていた。赤い髪の毛は火属性、青い髪色は水属性。白髪の人は擦り傷を治し、茶髪の人は土で壁を作っていた。多くのYouTuberが検証動画を上げ、SNSでは魔法の映え写真が投稿されていた。 その夜は青色に毛先だけ赤い父が、お風呂のお湯を沸かしてくれた。今日から水道代とガス代が安くなると母が喜んでいた。髪の多さと魔力の量は関係ないのか、家族で一番魔法を使えるのは父であった。 母のクリーム色と黄緑のツートンは植物に関する属性なのか、三回目の豆苗が採れたと笑顔で夕飯の鍋に彩りを加えていた。家庭菜園はそれほど変化がなかったらしく、豆苗程度が限度らしい。ショボい。 兄は白髪に赤や黄色、青色がメッシュに入る多色なだけあって指先から炎や電気、水と多種類の魔法が使えたが、どの魔法も指先程度で持続時間も短く、あまりに貧相で肩を落としていた。彼の思うヒーローには程遠かったようだ。自宅でお手軽花火みたいでいいじゃんと妹は思ったのだけど。 ★ 「赤系統だから炎とか思って試してみたけど、なんにも出てこないんだよねえ。雄大は土っぽいね? 」 「土っていうか、灰色が入ってるせいか岩っぽいんだよねー。ほら。」 学校の帰り道に雄大が見せてくれたのは、歩道脇に生・え・た・大きな岩。めっちゃ硬い巨岩。つーか、勝手に生やしていいのか? 「夏海のピンクはなんだろうね。髪色だけじゃなく、元からの性格とかキャラクターも関係してるって考察もネットに載ってたけど。」 「わたしの性格だと、明るくはないから闇とかかな……。闇系は紫髪ってサイトに書いてあったな。存在を薄く出来るとか、影に隠れられるとか、忍者っぽいのとか。」 「闇ってよりも……夏海はノンビリしてるし、やっぱり空気を暖めるとかじゃね? 夏海のお父さんもお湯だしてるって言ってたじゃん。ほんのり過ぎてわかんないだけだったりして。」 「えー、暖房? そうかなぁ。―――あ、アイドルとか女優なんかは薄いピンクとかストロベリーブロンドとかで魅了系じゃないかとか言うのもあったけど……、さすがに違うよねぇ。」 「え? 魅りょっ―――ゴホゴホッ」 魅了から遠過ぎキャラだからって、咳き込むとかひどすぎる。 雄大が咳き込んでいる間に自宅前に着く。軽く蹴りつけて、バイバイを言う。また明日。 ★ ある日の放課後。わたしは委員会の仕事で遅くまで学校に残っていた。 夕日が指す時間帯、足早に学校の玄関を出ると駐輪場でたむろする苦手なギャル男たち―――山内と仲田に出会った。 「あ、ピンクちゃんじゃーん。」 「……ピンクじゃないです。し、嶋田です。」 前は関わって来なかったのに、髪がピンクになり目立つようになってから彼らが話しかけて来るようになった気がする。わたしは馴れ馴れしさに少し後退りしてしまう。 「スゴいピンクだよねえ。どんな魔法なの? 昨日生配信してたAV女優もピンクの髪の毛だったし、やっぱり、そっち系? 」 「そっち系って……? 」 「きもちよーくしてくれる系とかぁ? あははは。」 「マジかよ! ピンクちゃん、エロい魅了の魔法なん? 」 「AV女優も感度スゴくなったって言ってたし、少し触っただけでもどうにかなっちゃうんじゃなーい? 」 「うっわ! ねー、マジでピンクちゃんおっぱい大きいし、俺でその魅了魔法、試したりしない? 」 肩や腕に山内が馴れ馴れしく触るってくる。 にやにやした仲田がわたしの胸元を覗き込む。 髪や、肩、腰―――触れたところ全てが泡立つように鳥肌がたった。 冗談、とわかっていても苦手だった。こう言うの。 特に胸が大きいってのはコンプレックスだったし、身体の一部分だけを注目して見られるのは本当に嫌だった。 胸が原因か分からないけど痴漢にはよく遭うし、変質者にもよく遭遇するし。 気持ち悪い! 気持ち悪い! 気持ち悪い!! 今までに溜め込んでいたイラつきが溢れて、堪えきれなくなるような気がした。 気持ちがゾワゾワして、怒りが下から込み上げてくるように感じた。そして――― ドッカーーーン!!!! 背部で爆発音がした。 っていうか、爆発した。 戦隊ヒーローの名乗り並みに爆発した。 ★ 「アンホ爆薬ってピンク色の爆薬があるんだって。」 雄大が言った。 ググってみた爆薬の色は、まさにわたしの髪の毛の色だった。 どうやら、わたしの魔法は感情の変動で爆発が起きる魔法らしい。 駐輪場が爆発したあの日から、苦手なギャル男たちはわたしに近づかなくなった。 そりゃそうか。リアルに爆発したもんな。 ウザくはなくなったが、まるで腫れ物のような扱いで、―――ギャル男どころか、周りのひとは誰も近づかなくなった。 わたしは完全に危険人物になっていた。 居たたまれなくなって、学校を休んで数日。 心配したらしい幼馴染みは、無理やり家に押し掛けてきた。ピンポンの連打とLINEスタンプ連チャンに負け、しかたないので近所の公園まで恐る恐る外出する。 帽子を目深に被ったけど、ショッキングピンクはなかなか隠れてくれない。 「ピンク系の髪の人が爆発起こしたって事例も、ちらほら出てるってさ。ほら。サイト更新してたよ。」 「うん、見たよ。―――だけど駐輪場爆発させたのは、わたしだけかも。」 「確かに凄い爆発だったみたいだけど、あいつらは自業自得だよ。あいつら、こうなってからずっと夏海のこと魅了の魔法だとか言ってじろじろ変な目で見やがって。髪の色が変わっただけで、昔から夏海はずっと変わってないのに。」 「で、でもっ、かすり傷とは言え怪我させちゃったし……っ」 「炎上したAV女優は、ピンクのかつらを被っていたってよ。キャラ作りだったってTwitterで謝罪してた。」 「同じピンク系の髪の毛がそう言う目で見られるからね。わたしは炎上どころか爆発したけど。」 「爆発、ね。――――ねえ、夏海。なんでそんなに離れてるの?」 今、雄大からわたしはたっぷり距離を保っている。 しかし雄大が近づいてくるため、後退りして転びそうになったりもしている。 いつもの雄大とは違う真剣な目をしていて、なんだか逃げ腰になってしまう。 「だって、雄大も爆発に巻き込まれるかもじゃん。」 「俺のこと、心配してんの? 」 「そりゃそうだよ。だって、怪我しちゃうよ……。」 「あー、……たぶん大丈夫。試してみようか? 」 「え? なにが大丈夫なの? 」 「夏海が爆発しても俺は怪我しないし、夏海を守れるよ。」 「あ、危ないよ! 近づくのは!! 」 「俺から離れないでよ。――なあ、気付いてるんだろ? 俺が夏海のこと、どう思ってるのかって。結構表に出してたつもりなんだけど。」 わかってる。気がついていたけど、幼馴染みの関係が心地いいから、そのままにしてた。 「あいつらが"夏海に触ったら爆発した"ってあちこちに大きな声で話すから、俺の頭の方が爆発しそうだった。」 近づく雄大から距離を取ろうとするけど、もう後ろにはジャングルジム。 「誰かに触れられるくらないなら、怪我したって、俺が、触りたい。」 「!! ちょ、ダメ!! 雄大―――!! 」 慌てて逃げようとするわたしの手首を、びっくりするくらい素早く引っ張る雄大。 景色が反転し、気がつくと雄大に抱きしめられていた。 ドッカーーーン!!!! 爆発音はしたけれど、爆風が来ない。 パラパラと小石がなにかを弾く音がするだけ。 見上げると、わたしたちを守るように岩の壁が取り囲んでいた。 ―――雄大の魔法。 「あのさ、たぶん俺の魔法は、このためにあるんだと思うんだよね。夏海の魔法が爆発しても、大丈夫なように。」 「爆発から守ってくれる、魔法……」 「これからずっと、夏海の爆発の度に岩の壁を出すから。だから―――」 ドッカーーーン!!!!!!!! 雄大が耳元で囁いたとき、今までで一番の爆発が起きた。 それは、リア充が爆発する類たぐいの爆発。 地味系のうちらにはあんまり似合わないけど。 硬い岩の壁の中で、わたしは答えるように雄大を抱きしめ返したのだった。
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