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この百瀬時亜という男子はとんでもない爆弾を落としてきた。
これは一体どういう事なのだろう。
ニコニコ笑う百瀬くんが記憶の中の女性と重なる。
初めて会った時から変わらない笑顔を浮かべている女性。
苗字は同じだし、顔も百瀬くんと似ていなくはないけれど。
決めつけるのは少し早いだろうか。
「どうしてそんな事きくの?」
一瞬しらばっくれようかと思ったが、何となく無駄な気がしてそう返した。
質問に質問で返したが、百瀬くんは躊躇すること無く答え始める。
「これは肯定ととっていいのかな?実は、知り合いに裏社会の人がいるんだ。僕としてはその人に危ない仕事は辞めて欲しいんだけど、何を言っても聞いてくれなくて」
これは大して親しくもない人間にベラベラと喋っていい内容なのだろうか。
何とも言えない気持ちになりつつ、私は百瀬くんに続きを促す。
「それで、その人は夜月組と関わってるという話を聞いたんだ。だから僕はそっちの方から何か言ってもらったら辞めてくれると考えたんだ。でも、それには根回しをしないといけないでしょ?そしたら、夜月さんと同じクラスになった。夜月なんて苗字そうそういないし、もしかしたらって思ったんだけど」
そこで百瀬くんはもう一度言葉を区切り、地面に血だらけで転がっている男たちを見た。
そして、私の方をもう一度見る。
「当たり?」
疑問形な筈なのにその言葉には確信があった。
ここまで喋られたらもうどうしようもない。
今日に限って蓮くんが来る気配もないし。
私は両手をあげて、ヒラヒラと降った。
「そこまで喋られたらもう認めるしかないのだけれど」
「ああ、やっぱりそうなんだね」
やっぱり。
私にこんな質問をする前から分かっていたのだろう。
分かっていてここまで言う必要はあっただろうか。
まあ、ここまできたら次に言われることは一つだ。
「じゃあ、今の話に協力してくれる?」
でしょうね。
ただ、これに関しては私も確証を得なければいけない事がある。
「それに関しては後回し。私からも質問だけれど、百瀬くんが言ってるのって、百瀬時雨さんの事?」
「知ってるの?」
私が彼女の事を知っているかは知らなかったのか百瀬くんは意外そうな顔になった。
時雨さんは私がまだ幼い時に母と私の護衛をしてくれていた女性だ。
今は矢神組の情報屋として矢神組長直属の部下的な立場にあるらしい。
現若頭の蓮くんや元若頭とも仲が良かったので割と組に出入りしている。
「百瀬くん、時雨ちゃんとそっくりだし。分かるよ、なんとなく」
「姉さんとそんなに似てる?まあ、いいや。知ってるなら話は早い。協力してくれる?」
姉さんってことは、時雨ちゃんの弟、か。
いくら姉弟とはいえ、時雨ちゃんに事情を話してからじゃないと。
あとは何か知ってそうな人に聞いてみるとか。
時雨ちゃんの面倒を見てた都さんが一番何か知ってそうだけど、忙しそうだしあんまり会わないしなぁ。
蓮くんに取り敢えず聞いてみようかな。
「私一人じゃそれは判断出来ないから、返事はまた今度でいい?」
駄目元でそう言えば、百瀬くんはあっさり頷いた。
「別にいいよ」
いいんだ。
意外に思いながらも、百瀬くんとそこで別れれば蓮くんが来た。
「相変わらず、派手にやったな……」
正当防衛だよ、これは。
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