1話

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小夜は夢をみる。 15歳にしては低い視点に小さな手。けれど、両手にはなにも持っていない。真夏日のような眩しい日差しに目を細めると、知らないはずの背格好のうしろ姿へ走り駆け寄る。隣に並び歩くと、小夜は描かれた弧を指さし目を細めた。 スローモーションのような景色の中、ふと名前を呼ばれ、顔をあげると、見慣れた表情をしていた背の高い友人が目尻を下げた。 カーテンの隙間からは薄らと青白い光が漏れている。布団から食み出していた足は抱えるようにしまい込まれた。 瞬きを繰り返している。目を覚ましていたらしい。目頭から流れた涙が枕に染み付く。それから、ゆっくりと上体を起こした。鼻を啜り、堰止(せきど)めされている残りの涙を手の腹で拭う。深呼吸をして、目を瞑る。 彼の1日は、ときどきこのようにして始まる。それ以外はいつも通り支度を行う。服を着替えて、顔を洗って、歯を磨いて、朝食を食べ、家を出る。
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