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「そういえば、行くときヒデさんに会って・・・これくれた」
歩き始めてから数秒後、コートのポケットから手のひらサイズの薄っぺらい赤いなにかを手渡した。
寒いから使いなさい、と言われたらしい。外袋の表紙には、大きく、貼らないカイロと温度や持続時間が記載されている。彼らは早速、封を開けて機能性を確かめる。
「神寺くん、ご飯なに食べたい?」
「決めてないかな」
小夜はカイロを振る。
「少しだけど、僕らじゃなかなか行かない都会だし、食べ歩きにしようか」
「そしたら、タピオカ?」
お茶?珈琲?と隣を歩く小枝の横顔を見ると、なにやら澱んだ表情をしていた。此方を見ていないことをいいことに足を止める。
それでも気づかなかった。声を掛けることもなく、振り返ることもなく、彼も足を止めた。
避ける気配のない自転車と衝突しそうになっていることにも気づかない。そのうしろ姿に走って向かい、手を引っ張った。
「危ねぇだろ!」
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