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怒鳴り声は空を切った。ブレーキの音は聞こえない。避けるつもりは毛頭ないらしい。
「佐藤くん余所見しすぎ」
余所見だけで済まされないのが事故というものだ。
「脚は?平気?」
目を開き、唖然としている。自転車に驚いたと言うより、姿勢を崩されたことに驚いている様子だった。数秒後には、なにもなかったように体制を直す。
「大丈夫・・・・・・ありがとう」
今の小枝には、些細なことかもしれないが、小夜にとっては重大なことだ。けれど、そんな行動は今に始まったことではなかった。学校の階段を降りているときに視界からフェードアウトしたり、飲みきらないままストローに齧りついて離さなかったり、なにかが抜け落ちてしまったように、途端に意識がどこかへ行ってしまう。例えを変えれば、なにかに取り憑かれたように放心する。それでいて不注意なのだ。
なにかがあってからでは、心臓がいくつあっても足りない。
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