1話

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怒鳴り声は(くう)()った。ブレーキの音は聞こえない。避けるつもりは毛頭(もうとう)ないらしい。 「佐藤くん余所見しすぎ」 余所見だけで済まされないのが事故というものだ。 「脚は?平気?」 目を開き、唖然としている。自転車に驚いたと言うより、姿勢を崩されたことに驚いている様子だった。数秒後には、なにもなかったように体制を直す。 「大丈夫・・・・・・ありがとう」 今の小枝には、些細(ささい)なことかもしれないが、小夜にとっては重大なことだ。けれど、そんな行動は今に始まったことではなかった。学校の階段を降りているときに視界からフェードアウトしたり、飲みきらないままストローに(かじ)りついて離さなかったり、なにかが抜け落ちてしまったように、途端(とたん)に意識がどこかへ行ってしまう。例えを変えれば、なにかに取り憑かれたように放心する。それでいて不注意なのだ。 なにかがあってからでは、心臓がいくつあっても足りない。
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