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1話
秒針が秒数を刻む。
カーテンの奥にある冬天の夜道は、室内よりも冷えているだろう。そう思いながら眺める吐息は白く湿っていた。窓ガラスが曇っているのは、この季節になればよく見ている。カーテンの向こうを想像できる。
鉛筆を持つ手は止まっていた。
視線は時計へ注がれ、針が12を指そうとしている。溜息を吐きながら、ゆっくりと背もたれに預ける。ぎし、と音を鳴らす。
ノートに綴られた字面は先程まで直向きに取り組んでいた神寺小夜の文字そのものだった。握る鉛筆を置いて、冷えた左手を摩る。少しだけ長針が動く。
机の端に追いやられているスマートフォンがバイブレーションする。画面に表示される通知名には、【佐藤小枝】と書かれていた。慣れた指先で上へとスライドをする。
小夜の顔が綻んだ。口角が上がっている。嬉しそうだ。寒さで悴んでいた左手にも熱を持った様子で、字を書いていたときよりも滑らかに動いている。当たり前なのかもしれないが、先程よりも元気だ。
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