26人が本棚に入れています
本棚に追加
「頼む。もう仕事に来ないでくれ!」
バイト先のコンビニにて、俺は店長からクビを懇願されてしまった。
「君が来ると売り上げが半分に下がるんだ。発注も狂うし、これじゃあ商売にならない」
「そうですか……」
「君はお店で働くのは向いてないのかもしれない」
お世話になりました、と頭を下げ俺は元職場を去る。
はぁ、今回も続かなかった。
今まで数ある職場を働いてきたが、どこも長く続いたことはない。
長くて四ヶ月。最短は一週間。
致命的なミスをしたことはない。
自分で言うのもなんだが、性格も謙虚で穏やか、職場の人間関係もうまくやっていた。
なのに俺はいつもバイトをクビにされる。
「あ、雨……」
コンビニを出てすぐのところでポツリと一滴の雫が頬を打った。
やがて落ちる雫は数を増し、あっという間にコンクリートを濡らす程の量になる。
「また夕立だ……」
今日雨が降るなんてことは天気予報でも全く報じられなかった。
道行く人々は突然の雨に「うわぁ」だの「聞いてないよ」などと悲鳴をあげ頭を覆う。
悲鳴をよそに、俺は当然のようにリュックサックから折り畳み傘を取り出し、傘を広げた。
「ほんと、ここまでくると呪いだよな」
平井慎。二十六歳。職業フリーター。彼女なし。
特技・雨を降らすこと。
特技というか特殊体質に近い。
俺が目的地に着くと、必ず雨が降る。
天気予報で雨という言葉が一文字も出てこない時も、俺が行く先で雨が降る。
俺が現れると突然の雨があまりに起こるので、友人からは『ミスター雨男』と称された。
俺が行く先々は雨で湿る。
これまで、ペンキ屋の塗装、窓の清掃、農作物の収穫、コンサートスタッフ、その他諸々と様々な仕事をしてきたが、どれも俺の雨男体質のせいでクビにされた。
この体質を踏まえ、天気に左右されないコンビニを選んだつもりだったが、やはりクビにされてしまった。
「天気とまったく関係ない仕事ってないかなぁ」
それとも、この体質が生かされる仕事とか。
「あるわけないよな」
ため息を吐いたその時、
雷鳴が轟いた。
辺りが眩しい光で包まれる。
あまりの衝撃に持っていた傘を離してしまった。
「ビックリした……」
すごい音だった。光ったし。
この辺に落ちたんじゃないか?
落ちた傘を拾おうとすると、ガシッと手を掴まれた。
その手は力強く、自分より一回り大きい。それに手が赤かった。
「赤い……?」
視線を掴んだ手から人物へスライドさせる。
そこには真っ赤な鬼がいた。
「ついに見つけた! 俺たちのメンバーになる逸材をッ!!」
最初のコメントを投稿しよう!