夕立ロックンロール

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 それから俺たちは公園に集まりバンド活動をするようになった。  しかし活動は週に三回。  これは最初に呉郎たちと約束した。本人たちはしぶしぶといった様子だったが。  理由は二つ。  一つはいくら無職とはいえ、毎日公園でバンド活動をすれば公園で遊ぶ子供たちが困ってしまう。  それは雨で遊べないという意味もあるが、時に雨でも公園を散歩する人たちもいる。  毎日雨のなか謎のゴツい野郎集団がたむろしていたら怖くて歩けないだろうという考慮も入っている。  二つ目は単に俺が毎日はしんどいから。雷神たちのロックなノリは一時間その場を共にしただけでかなり疲れる。  明るい人といると自分も明るくなるといったらノーだ。あれはこちらの元気も吸いとってパワフルになっているのだ。呉郎たちもそれに近い。  とにかく、週に三回ある活動日は一日中雨のなか活動させられて死ぬほど疲れた。  ボーカルに任命された俺の歌の練習は文字通り地獄の練習だった。 「そらを~かける~い~か~ず~ち~のー」 「ストーップ! おい平井オメェなんで演歌みたいになるんだよッ! もっと魂を込めてソウルフルに歌えよ! イィカァズゥチィィイイッッ!! っだるぉッ!?」  巻き舌で捲し立てる呉郎。  迫力が鬼そのものでとても怖い。  しかし恐怖で音痴が治るわけがなく、俺は呉郎に叱責されながら演歌まじりの自称ロックを歌い続けた。 「だからァ、そこはイィカァズゥチィィイイッッ!!」 「いぃかぁずぅちぃ~の~」  でも何故かこうして雨に打たれながら呉郎たちと歌うのは楽しいと感じた。  他所から見たら自分たちは馬鹿なことしてる奴らだと笑われそうだが、そんな馬鹿なことを自分がして楽しんでいることが今までにない経験だったし、新鮮で充実していた。  そして活動を始めて三ヶ月。  俺たち雷音のバンドの楽曲がついに集大成を迎えた。 「そらを~かける~いぃかぁずぅちぃーの~っ!」  練習を重ね、僕の歌声は演歌テイストを混ぜつつもロックに融合し、独特な世界観を醸し出していた。  ドコドコドコ、ゴロゴロゴロ。  ドラムが鳴り、ギターの高音が雨のなかを突き抜ける。  この日はいつに増して激しい雷雨で公園は大荒れだった。 『ヒャハーッッ!!』  荒れ狂う呉郎たち。  各々が雨を浴びながら叫んで楽器を奏でている。 「今日は俺たちのために来てくれてサンキューッ!」  轟さんが投げキッスをするが当然だが会場の公園には誰もいない。  こんな雷雨に外に出る馬鹿者たちは俺たちしかいなかった。  ゴロゴロと雷が鳴る。  激しい雨。  頬に打ち付ける大粒の雨粒。  天に走る紫の稲光。  今までずっと見ていて憂鬱だったのに、今は楽しくてしょうがない。  ラストのサビに向けて息を深く吸い、歌おうとすると、空が急に明るくなった。 「なんだッ!?」 「雨が止んだ……!?」  驚いて上を見る。  灰色だった空から光の梯子が地上を照らす。  雨は止み、空はすっかり明るくなって太陽が眩しく登場した。 「「あ、あれ!」」  雷鬼と光鬼が揃って空を指差す。  眩しく輝く太陽の手前にシルエットがあった。人の形をしている。五人はいるだろうか。  逆光で黒くなってしまっているが、謎の集団シルエットはだんだんとこちらに迫ってきて、ついには僕たちの目の前までふわふわと降りてきた。 「最近雨が多いと思ったら、思わぬ新人を手に入れたわけか、雷音よ」 眩しい光を纏い、謎の集団はそう言う。 「お、お前たちは……!」  呉郎たちが鋭く謎の集団たちをサングラス越しに睨む。  彼らが敵対心を抱く理由がなんとなくわかった。  晴れ渡る空。謎の集団の服装。  白いポンチョを身に纏い、頭部はスキンヘッドで太陽の煌めきを反射させている。  ゴツさで可愛さはだいぶ削られているが、この姿には見覚えがあった。  そう、これは…… 「“照照坊主”ッ!!」  ライバルバンドの照照坊主のお出ましだった。
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