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 約束当日の朝を迎えると、ひどく落ち着かない自分がいて、昂る感情を紛らわすために空の入道雲を見上げた。あの雲と空は美帆の住んでいる町にもつながっていて、その空の下で美帆がどんな風に変わったのか想像すると、やはりドキドキしてまうのだった。  JRと京王線を乗り継いで橋本駅に到着したのは、いちばん暑い盛りだった。冷房の効いた車両から降りると汗が一気の噴き出してきた。  南口駅前のロータリーには何台もの路線バスが止まっている。田舎だと思っていたら、でかい商業ビルやマンションが立ちならんでいて、ちょっとした都会で、少し意外な気がした。  僕はカーゴパンツのポケットからスマホを取り出した。  目的地までの行き方がメモしてあるのだ。  10番線の停留所で千ヶ瀬(せんがせ)温泉行きの13時18分発に乗車。下車駅は御影町。      若草色の小型バスがすでに待機していた。  IC乗車券機能付きのスマホをかざすと、運転手がぐいと首を曲げた。 「申し訳ない、このバスはIC乗車券は未対応なんですよ。整理券と現金でお願いします」 「げ、マジか」  僕は思わずつぶやき、言いようのない苛立ちの視線を窓の外へ向けた。  遠くに薄紫に霞むの山々が見えた。 「御影町まで幾らですか」  僕は少し尖った声をだした。 「1050円です」  1050円の距離を、僕は想像した。  きっと山の奥なんだ。  車内の客は僕だけだった。どことなく妙な雰囲気を感じたが、気にはならなかった。  奥の座席に腰を下ろすと同時にバスは動きだした・・・
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