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「おい、美帆。手伝うよ。釣鐘堂(つりがねどう)まで運ぶんだろ?」  僕たちが軽ワゴンから段ボール箱を下ろしていると、背後から声がかかった。  振り向くと、祭り半纏を羽織ったがっちりした体形の若い男が腕組をしている。短く刈り上げた髪、真っ黒な目、日焼けした容貌は精悍だった。  美帆は、缶ビール24本入りのケースを抱えると男にずいと差し出した。 「あ、大岩くん。役員さんの控え所まで配達なの。このクソ暑い中を百段階段は、さすがにきつい」  祭り半纏の男は大岩という名前らしい。彼はビールケースを受け取りながら、僕を一瞥した。 「初めてお目にかかるね。どちらさん? ミカゲスーパーのバイトではなさそうだ」  警戒するような表情を崩さないまま、美帆に訊いている。それは彼女に対してというよりは、間接的に敵意を僕に向けているのだと感じた。 「東京の友達よ。彼は、富樫貴(とがしたかし)くん。花火大会に招待したの。こちらの世界が気にいるかどうかは、わからないけどね」   含みを持たせたような声で美帆は答えた。  こちらの世界? こちらの世界ってなんだ? スマホの使えない野蛮な世界のことか。  僕が困惑しているのが、祭り半纏の男には伝わったようだ。 「ふーん、そういうことか。俺は、大岩莞爾(おおいわかんじ)蛇の目御影国(じゃのめみかげこく)の設立を夢見ているアホな男じゃ。よろしく」  ガハハハッと豪快に笑うと、2個のビールケースを軽々と肩に担ぎ、石段を登りはじめた。
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