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ビルのデザインを依頼したいクライアントも多く、賞をとったこともある斗翔は業界ではちょっとした有名人だった。
そんな彼が私の前で描くのは普通の家。
デザイン性より、居心地が良さと懐かしさをあわせ持つ古民家をリノベーションした家がいいと言っていた。
本当の彼はもてはやされるよりも静かに暮らすことを望んでいるような人だった。
「私達の住む家?」
「うん。緑が多い田舎の海が見える場所に住もう。犬や猫を飼って。必要な時だけ会社に顔を出して。そんなふうに暮らしたい。夏永と」
結婚の約束と近い将来の話をして、私達は結婚することを会社に報告しようと決めた。
うまくいくと信じて疑っていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私と斗翔は国内トップの建設会社森崎建設で働いている。
私は経理課、斗翔は設計課で階は違うけれど、お昼は一緒だ。
いわば、会社公認の恋人同士……自分で言ってて恥ずかしいけど。
ま、まあ、そんな私が筒井課長に『結婚します』と報告をした。
「清本さん、とうとう森崎君と結婚か!おめでとう」
筒井課長は手を叩いて喜んでくれた。
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