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そう言って、離れるといつの間に私から鍵を奪ったのか、マンションの鍵を彼は手にして笑った。
「寝る。入ってこないで。入れないだろうけど」
「えっ!?ちょっと!
寝室のドアを閉めて、中から鍵がかけられたのがわかった。
私が抱きしめた時に奪われてしまうなんて思わなった。
油断ならない。
彼は私が思うより、一筋縄ではいかない人間のようだった。
扱いが難しい。
「……まあ、いいわ。そのほうが手に入れた時が楽しいものね」
ぐっと悔しさを堪えた。
下着姿にまでなって、こんな扱いされるとは思ってもなかったわ……
無様な私の姿が窓ガラスに映っていた。
けれど、この怒りの矛先を向ける場所がない。
夏永さんはどこまで私の幸せの邪魔をするつもりなの?
私なら彼が欲しいものも必要なものもなんだって揃えてあげれるのに何が足りないというのだろう。
「彼は天才だからこだわりが強いのかもね」
それなら、少しずつ距離を縮めてみせる。
そう、彼は私の手の中にあるのだから。
ここに彼はいる。
あなたのそばではないわ。
夏永さん―――
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