第3話 暗転

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みんなに報告した日、夕飯はいつもより豪華にしようと思って、ちらし寿司を作った。 ちゃんと錦糸卵は焼いたし、椎茸も甘辛く煮て、上にはイクラや穴子、ピンク色のさくらでんぶを散らす。 「彩りは完璧。私ってば、もしかして天才?困ったなー!料亭からスカウトがきちゃうかも!」 ふふっと笑いながら、自画自賛して一人ピースサインをした。 そして、あさりの潮汁を作ってから、ハッとした。 「ひな祭りじゃないんだから……」 なにしてんの。私。 あっさり天才の称号を心の中で返上した……。 がっくりと肩を落としているとちょうど帰宅してきたらしい斗翔(とわ)が台所をのぞいていた。 「夏永(かえ)は天才だよ」 ―――聞かれてた。 「斗翔。いつの間に帰ってきたの?」 「ついさっき」 嘘だ。 天才のくだりを考えたら、結構前に台所の前をうろうろしていたに違いない。 恥ずかしい。 こっちとしてはその気遣いも辛いとこよ!? 「そ、そう。それならいいけど」 聞いてなかったことにしてくれた斗翔の優しさに複雑な気持ちになりつつ、ちらし寿司を茶の間に運んだ。
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