第26話 必要な狡さ

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敵って…… どんな生活を送ったら、そんな発言が出るのか。 「欲しいものがあるなら、相手を出し抜かないと。少なくとも君が持っている清らかさや良識は捨てることだ」 それは悪魔の囁きに似ていた。 伶弥さんの言葉は今の斗翔には甘い毒のようだった。 その毒に手をだしたら、斗翔は変わってしまう。 そんな気がして怖かった。 「な、なんてこと言うんですか?斗翔はこのままでいいんです!」 「本当にいいのかな?斗翔君?」 清浄な空気の中で伶弥さんの周りだけ暗い。 まるでそこだけ影が落ちたかのように。 「―――そうかもしれない」 「斗翔!」 「帰る」 斗翔は立ち上がった。 伶弥さんが笑った。 「それがいい。もっと狡賢くならないとね」 「伶弥さん!」 「夏永ちゃん。欲しいものがある人間は強い。ただ与えられるだけの人間よりもね」 「言っていることはわかります。けど、斗翔は……」 汚れる必要なんかないと言いかけて口をつぐんだ。 今まで斗翔は森崎社長に言われたとおりに生きてきた。 それはすべて与えられてきたもので、進むべき道も環境も働く場所も用意されたものだった。
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