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「夏永のこと、よろしくお願いします」
そう言って斗翔は私に背を向けた。
低い声と冷めた目、私が知っていた穏やかな斗翔の顔はもうなかった。
「夏永ちゃんも斗翔君を失いたくないなら信じてあげないと」
伶弥さんは斗翔を見送ると、私にそう言った。
「これは簡単そうで難しい」
心を見透かされているような気がしてうつむいた。
斗翔を信じたいのに突き付けられる現実にいつも心が折れそうになる。
「星名が俺を信じてくれたから、今、ここにいることができる」
雲に隠れた太陽が顔をのぞかせ、庭を照らした。
明るい日差しを伶弥さんは見上げた。
「君達も一緒にいれるといいね」
そう言って、手を振ると伶弥さんは帰って行った。
「斗翔を信じる……」
優奈子さんが私になにをしようとも斗翔を信じるだけ。
ぶるりと体が震えた。
裏切られることを考えたら、信じるのは怖い。
けれど、斗翔―――胸元に残る赤い痕を指でなぞった。
信じていてもいい?
私を諦めてないってことを。
斗翔が私を求めてくれるのなら、優奈子さんにだって負けない―――きっと。
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