第3話 暗転

5/7
8508人が本棚に入れています
本棚に追加
/284ページ
両親を亡くした後、森崎本家の社長が経済的援助をしてくれたこともあって、大学の建築学科を卒業した斗翔は森崎建設に入社した。 ことあるごとに森崎社長は『親が亡くなった後、お前の親代わりだったのは誰だかわかるな?』と恩を着せて斗翔にどんどん仕事をさせている。 あの社長の顔を思い浮かべるだけで腹が立つ。 「夏永。次の休みに一緒に家を建てる場所を見に行こう。いくつか候補地があるんだ」 「海が見えて、緑の多い所?」 「そうだよ」 私のイライラなんか一瞬で消し飛んでしまった。 人間できてるなぁ……私に比べて。 早く週末になればいいのに―――どんな場所に私達の家を建てるのだろう。 急ぐ必要は少しもないのに早く見たいと思っていた。 私達の家を。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「先輩。顔がにやけてますよ」 隣の席の後輩が横目で私を見ていた。 に、にやけてた? 週末のことを考えたら顔に出ていたのかも。 「そ、そう?」 「幸せ絶頂ですね。いいなあ。私も早く結婚したーい」 コホンッと筒井課長が咳払いをした。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!