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両親を亡くした後、森崎本家の社長が経済的援助をしてくれたこともあって、大学の建築学科を卒業した斗翔は森崎建設に入社した。
ことあるごとに森崎社長は『親が亡くなった後、お前の親代わりだったのは誰だかわかるな?』と恩を着せて斗翔にどんどん仕事をさせている。
あの社長の顔を思い浮かべるだけで腹が立つ。
「夏永。次の休みに一緒に家を建てる場所を見に行こう。いくつか候補地があるんだ」
「海が見えて、緑の多い所?」
「そうだよ」
私のイライラなんか一瞬で消し飛んでしまった。
人間できてるなぁ……私に比べて。
早く週末になればいいのに―――どんな場所に私達の家を建てるのだろう。
急ぐ必要は少しもないのに早く見たいと思っていた。
私達の家を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「先輩。顔がにやけてますよ」
隣の席の後輩が横目で私を見ていた。
に、にやけてた?
週末のことを考えたら顔に出ていたのかも。
「そ、そう?」
「幸せ絶頂ですね。いいなあ。私も早く結婚したーい」
コホンッと筒井課長が咳払いをした。
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