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目に見える数字に利益、それを重視し、自分以外の他人がどうであろうと関係ない。
すべてはどれだけ自分にとって有益なものであるか。
それだけだった。
共和銀行に立ち寄ると優奈子の父親は自慢げに俺を行員達に紹介した。
娘の婚約者としてではなく、『建築デザイナーの森崎斗翔』として。
「頭取、森崎斗翔さんとお知り合いなんですね」
「先日、発表された新しい駅のデザイン、素敵でした」
「今後はどんなものを手がけていくんですか?」
何人かに話しけられて、笑顔でかわし、頭取と来客用の部屋に入る。
来客用の部屋には革のソファーが置かれ、金縁の絵画が飾ってあった。
「娘がなにかしたのかね」
さっきまで堂々としていた頭取が表情を曇らせていた。
これはなにかあるなと察しのいい人間なら誰でもわかる。
軽く探りをいれてみた。
「実は優奈子さんが職場に押しかけてきて困っています」
「優奈子が……」
「先日は仕上がった図面にコーヒーを投げつけられました」
「なんだと!」
頭取は顔を険しくさせた。
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