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「な、なんだと!いや、そういえば、秘書がなにか私に言っていたな。娘が古い家を壊したいとかなんとか」
「それが俺の家です」
ぐっと柴江頭取が言葉に詰まった。
「すまない。娘は母親を亡くしてから目が行き届かず、不憫に思って欲しいものはなんでも与えてきた」
「人は物とは違いますよ」
「そのとおりだ。飽きたら捨てる。飽きるまで付き合ってもらえないか」
「それでは同じことを繰り返すだけです」
頭取はポケットからハンカチを取り出して額に浮かんだ汗をぬぐった。
クーラーがよくきいている部屋だが、よほど娘に手を焼いているとみえる。
「俺には好きな人がいます。お嬢さんとは結婚できません」
「……そうだろうな」
「そうだろうな?」
「君で五人目なんだよ。恋人がいる男を奪うのは」
まるでゲームのように自分の手に落ちてくるのを楽しんでいるのか?
どれだけ人が苦しんでいるとも知らずに。
「頭取。お互いの利益のために手を結びませんか?」
そう俺は切り出した。
頭取が話に乗ってくることはわかっていた。
こんな俺を夏永には絶対見せれないな。
きっと叱るだろうし。
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