第4話 田舎の家

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『バケツのかわりにこれでいいか』とは思えなかった。 これは掃除用具ではない。 祖母が草木染めで使っていたタライだった。 「……おばあちゃんが私にツッコミいれたってことでいい?」 かなり手荒だったけどね。 元気を出せってことかな。 なるべく、他の方法で頼みたいところだったわ…… 結局、掃除用バケツは土間に置いてあるのを発見し、それを使った。 家の中の拭き掃除が終わったら、布団と座布団を干して、食料も買いに行かないと。 仕事はたくさんある。 祖母が亡くなってから、誰も家の手入れをしてなかったせいで庭は雑草だらけだし。 庭に降りて、草を見ているとヨモギが大量に繁殖していた。 それを手に取る。 「ヨモギは春と夏じゃ色が違うのよね」 祖母と一緒に染めたことがあるのを思い出していた。 春のヨモギは黄緑色、夏のヨモギは緑色に染まる。 草木染めは不思議でその時、その時で色が変わる。 すべて自然任せだよと祖母は笑っていたのを思い出す。 「タライ……」 それはちょっとした出来心だった。 天気は上々、空は快晴。 初夏の空気は私を少しだけ前向きにして、ヨモギを無心で摘み始めた。
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