第5話 無心

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タデアイ、赤麻(あかそ)、ドクダミ、ツワブキ、カラスノエンドウ、雑草なんてないのだ。 この家には。 外に飛び出すとひたすら摘んだ。 まるで何かにとりつかれたみたいに。 少なくとも今は悲しみを忘れていた。 あのどうしようもない喪失感さえ消えていた――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 染め終わったのはお昼をだいぶ過ぎた頃だった。 庭にランドリーロープを張り巡らし、井戸水で洗った布を絞る。 そして、色とりどりに染まった麻のストールをロープにかけていった。 周囲の木々がちょうどいい影をつくり、陰干しができるようになっている。 これもきっとおばあちゃんが考えたんだろうな―――染めるための環境にこだわっていたおばあちゃん。 おばあちゃんの娘である母は変わった人だと言って、あまり寄り付かなかったけれど、私は長期の休みには決まってこの家に預けられていた。 両親が二人とも仕事の忙しい人だったから、マンションに長い時間、私一人置いておきたくなかったのだろう。 はためく麻のストールをぼんやり眺めた。 色に囲まれて、その中心で空を仰ぐ。 空色の青。 青は斗翔の色。
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