第5話 無心

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「いえ、平気ですか?」 「あんまり」 「そうみたいですね」 納多さんはサッと名刺を出した。 怪しい者ではないと言いたいのだろうけど。 差し出すのはそのお弁当にしてほしい。 「ごめんなさい。貧血みたいで」 「何も食べてなかったんですか?」 「水も飲んでなくて」 「は?何してるんですか」 慌てて納多さんは紙袋からお茶のペットボトルを取り出し、あけてくれた。 「こんな暑いのに水も飲まなかったら、倒れますよ」 「そうですね。ぶっ倒れるかと思いました」 納多さんは手際よく縁側に座った私の横にお弁当箱を開け、どうぞと割り箸までわってくれた。 「面倒見いいですね」 「……まあ、面倒を見る仕事をしているので」 現場監督だから? そう思いながら、名刺を見ると建設大手の朝日奈(あさひな)と書いてあった。 「はー。大きなとこで働いてますね」 鮭の入ったおにぎりを食べた。 しょっぱい鮭が白いご飯によく合う。 お米も美味しい。 「まあ、そうですね。朝日奈建設は業界トップですから」 ―――知ってる。 森崎建設が業績を落とし、トップに返り咲いたのが朝日奈建設だった。
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