第5話 無心

7/8
前へ
/284ページ
次へ
「いい年した大人が飲まず食わずで染物をし、倒れそうになっていたと聞けば、心配します。今後は体調管理をしっかりしてください。それから、引っ越しの片づけをしてから、行動するべきでは?見たところ、荷物は段ボールのままで茶の間に毛布と座布団。布団すらも用意せず、食料もないようですが。それはちょっとどうかと思いますよ」 「お説教!?」 しかも長い上に厳しい。 「誰も言ってくれる人がいなさそうなので、僭越ながら言わせていただきました」 な、な、なんなのーーー!!!! い、いや、確かによ? 確かに私はちょっと大人失格だったわよ。 でも、見るからにワケアリなかんじじゃない? 若い女性が一人田舎に来ました、しかも傷心。 事情を聞いてくれたっていいじゃないー! 「優しさがほしい!」 「優しさからの言葉です」 う、うわぁ。 この人、絶対敵を作るタイプだよ!? 正直すぎるというかなんというか。 「以後、気を付けてください。いいですね?」 納多さんはサッと立ち上がると、ストールを三本、手にして一礼した。 桜の枝のピンク、ヨモギの緑、ブルーベリーの薄紫。
/284ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8696人が本棚に入れています
本棚に追加