8718人が本棚に入れています
本棚に追加
「白にもいろんな白があるでしょ?黄色がかったものや青色っぽいものとか。同じ白でも名前があるのよ。莉叶ちゃんが着ているワンピースの白色は生成色っていうのよ」
「へぇー」
女の子は自分のワンピースをじっと見つめた。
懐かしいな。
私も祖母に作ってもらったっけ。
この家の持ち主だった母方の祖母は草木染め作家だった。
個展を開いたり、作品を売ったり、糸や布、服の注文も受けていた。
なかなか有名な染物作家だったらしく、今でも作品を売ってもらえないかという連絡が一人娘だった母に入る。
母は草木染めに興味はなく、むしろ孫の私が祖母の手伝いをしていたくらい。
いつもは父や母の車で送ってもらっていたけれど、今日は初めて自分の足できた。
両親は私がここにくることに賛成していなかったから―――仕事は退職に追い込まれ、婚約者を失った私のことが両親は心配だったのだろうけれど、慰めの言葉すら今は辛い。
指にはもう指輪はない。
約束も消えた。
今、私と別れた彼は何をしているのだろう。
まだ忘れられない彼の名が頭をよぎって目を閉じた。
斗翔―――
最初のコメントを投稿しよう!