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優しい雨音が私と彼を包んでいた。
朝、目覚めると湿度を含んだ温い空気が部屋に広がり、古い家が持つ懐かしい安心感が眠りを誘う。
ぼんやりしながら、彼の髪を指ですく。
それでも目覚めない。
雨の日はとくにそう。
体が重たくだるいのか、ずっと眠っている。
「猫みたい」
そう私が言うと『陸の生き物は雨の日は休むようにできているんだよ』などと、わけのわからない持論を展開して眠るのを正当化する。
今も起きる気配がない。
「斗翔。そろそろ起きないと夕方になるわよ」
「うん……」
斗翔は目をうっすら開けたけれど、また目を閉じた。
疲れて眠る彼の頬を手の平でなでると、眠そうな顔で目を開けて微笑み、私の手に唇を寄せる。
ぐりぐりと頭を押しつけて私を笑わせた。
「くすぐったい」
「わざとだよ」
斗翔は私の手に自分の手を重ねた。
銀色のペアリングが私と彼の同じ指にある。
それを眺め斗翔が幸せそうな顔をして目を細めてリングにキスをした。
「夏永、結婚しよう」
「もうほとんど結婚してるようなものだけどね」
同棲して何年になるだろう。
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