下校途中

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 学校から帰る途中、夕立に襲われた。 今日は雨が降るなんて言ってなかったのに、雨足はどんどん強くなる。  家まではどれだけ早く走っても十五分はかかる。雨はしばらく止みそうにない。  私は雨宿りすることにした。  通学路にある大きな(ほこら)。そこにはお地蔵様が祀られていて、人ひとりくらいなら雨が凌げるはず。  大量の雨の中を潜る(くぐ)に祠に向かうと、既に先客がいた。  小学生くらいの小さな子どもだ。  頭には赤い帽子をかぶっていて、手には小さな木のお椀を持っている。 「あの、隣、いいかな?」  と尋ねると、子どもは黙って頷いた。  濡れた体をハンカチで拭うが、全然役に立たない。制服のシャツが肌にはりついて気持ち悪いが、我慢するしかなかった。  晴れそうにない真っ黒な空を眺めていると、子どもが隣でもぞもぞと動いているのに気付く。木のお椀を顔に近づけて、何かを啜っているようだ。 「何してるの?」 「飲んでいるんだ」 「何を?」 「水を」  確かにお椀には水が並々と入っていた。 「喉、乾いてるの?」 「そういうものではない」 「どういうこと?」 「飲まないといけないものなのだ。しばらくこれを放置していたせいで、こんな天気になってしまった」  子どもはぐいっとお椀をあおった。  すると、さっきまで景色を霞ませるほど降っていた雨が、ぴたりと止んだ。  雲の切れ間から光が細く差し込む。 「雨止んだ……あれ?」  隣にいたはずの子どもはいなくなっていた。  子どもがいた場所には赤い帽子を被ったお地蔵様と、その足元には空っぽの木のお椀が置いてあった。
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