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賢者、王都に旅立つ。 : 11
目の前で私たちはガツガツと肉を平らげる薄汚れた灰色の魔物を見ていた。
魔物を使役することができる『テイマー』という職業があるが、『賢者』である私にも可能なのだろうか──思わずそう思ってしまったのが運の尽きというべきか。
横にいるミウは呆れた目で私と、テイムしてしまったその小型ウルフを交互に見つめている。
「……パトリック賢者様って、本当に『困ったモノ』を見過ごせないお方なんですねぇ」
「いや、そういうわけでは……」
うん。ごめん。本当に気の迷い。
まさかできるとは思わなかったのだ。
『汝の名を我に差し出し、我が命に従い、我と運命を共にせよ……汝をウルと名付けん』
古代語で唱えたその呪文が、まさか本当に効力を発揮するとは思わなかったのだから。
「ウルフ族だからウルって……安直ですよ」
「男に命名力があると思わないでください……特に私はそのセンスが壊滅的らしいんです……」
それは学舎で飼うことにした番犬たちに命名しようとした時に、『犬だからいちぬ、にぬ、さんぬでいいんじゃないですか?』と言ったらリムたちに絶望的な顔をされてしまったのである。
けっきょく犬たちは集落に引っ越す前にまだ村にいた子供たち全員から応募して、『リュー』、『パーク』、『チェル』と決まった。
そんな私に名付け親を頼もうとしていたマーリウスは、ある意味勇者と言えるかもしれない──
少しだけ遠い目になったが、実のところウルはこの名前を気に入ったようである。
《ウル!嬉しい!名前!ご主人!ありがとう!》
うん。
この言葉はきっと『名前をつけてテイムされたおかげで、生き残ることができそう!』の意味だ。
「……はぁ。しかも何故かウルの言葉がちゃんと私にまでわかるとか……いったい何者なんですか?パトリック賢者様って……」
ジィッと探るように見られてしまったが、私が『何者』かなんて説明のしようがない。
《ぱと……?ぱと!ぱと、ご主人!!ウルのご主人!》
「あー、はいはい……そうね、パトリック賢者様はウルのご主人様ね……うん、それは間違ってないね……よく見ると、君、かわ…可愛い……っ!」
呆れたような声ではあったがミウはウルを撫で始め、大人しく──いや、けっこうグイグイと頭を押しつけてくるその様子に何故かいきなり『可愛らしさ』を見出したらしく、ぎゅうっとその痩せた身体を抱き寄せた。
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