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賢者、転生する。 : 7
だが、それからの研鑽は楽しかった。
今まで繰り返してきた人生の中、私は農民や商売人としてひと通り生きてみて、その穏やかな人生の数々は『自分の魂に合わない』と悟り、その時に持って生まれた才能を見極めると、どうやら『冒険者』として生きるのが一番しっくりと来たのを覚えている。
冷静に考えれば『魔王を永遠に消滅させることはできない』という事実はあったものの、『自分に合った職業で一流以上のレベルに達する』という永遠の目標を達成することと比べれば、私自身にとっては何の不都合も不利益もない。
しかし運命というのは抗いがたく、またどこかで魔王と対峙することは避けられないだろうから、それまでに究極に辿り着かなければまた魔王に殺されて、今までの努力が無になりかねない。
そう思い、故郷の村で読めるだけの本を読み、町の学校へ進み、さらには領都にある学校から領主邸にある蔵書まで閲覧する許可をもらい、ついに『賢者見習い』となったのは、珍しく魔王に殺されることなく邂逅した日から8年後。
ようやく私はまた始まりの一歩を歩み出せる。
そうして王都の民間図書館への立ち入り許可を領主からもらい、冒険者ギルドに所属することを条件に、各ギルド内の書蔵室にも出入り自由となった。
ああ──何という至福。
前の人生で読んだ本もあったが、知らない本も多く、130年という年月の流れを感じる。
しかも恥ずかしいことに、いつの時代か私が書いた農耕に関する画期的技術本や、勇者として生きた人生が伝説として登場する小説などがあってまさしく赤面ものだった。
「……まったく。迂闊なことをするもんじゃないな。劇作家として生きなくて正解だった……」
そうひとりごちたが、今では誰も読めないと言われている古代語の歴史書をさる好事家から見せてもらった興奮で、たちまちそんなことは忘れてしまった。
その歴史書を完訳することで『見習い』から正式な『賢者』への推薦を行ってもらえるということで、私は一も二も無くその仕事に飛びついた。
古代語を読み書きした記憶はあるから、おそらく楽々とできる──そう思ったのだが、実際はそうもいかなかったのが誤算である。
記憶は書物に描かれた文字のようにはっきりとしたものではなく、『見たことがある』だけでしっかりと思い出すことが難しかったが、歯抜けの訳本を読み返しているうちに、私はある場所に古代語を相互訳するために作られた辞書がしまってあることを思い出した。
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