スタートのシグナル

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住宅地を抜けて大通りまでやって来た。もう目的地までは目と鼻の先だ。ここでもこの時間は歩行者も車もめったに通らないけれど、私は律儀に信号機が青になるのを待った。 「君も大変だねえ」 思わず信号機にそう語りかける。誰も見ていないのにずっと休みなく一定のタイミングで色を切り替える、その様が不憫のようなけなげのような、何とも言えない気持ちを湧き上がらせた。……私に似ているかも。 それから少しして青色が点ったので、横断歩道を渡り煌煌としているプランBのコンビニに入店した。ちなみにプランはCまである。 気分と食べたいものに会わせてプラン……すなわちどのコンビニに行くか決めているのだ。 「いらっしゃいませ」 客もおらず陳列された商品もまばらながらんとした店内を進んで行くと、店員がお決まりの挨拶をする。その声はかなり低音だけどしっかりしていて聞き取りやすく、何だかなじみのあるもののように感じた。 しかし私がそれに興味を持ったのはほんの数秒で、次の瞬間にはお目当ての商品を手に入れるのに夢中になっていた。 (チョコミントバナナパフェは買えたし……がっつりしたものも食べたいからカレーパンとカツサンドも買っちゃおうかな) こんな時間に一人コンビニで物色する楽しさとこれからこんなハイカロリーなものを食べるという背徳感でかなり気分が高揚していた。 これだから深夜のコンビニ通いは辞められない。 ――だけどそれと同時に罪悪感もあるのも事実だ。闇に紛れて不摂生な行いをすることに何の意味があるのだろう。 得られるのは一時の充足感とお腹につく脂肪だけだ。 そこまで考えて、暗くなった気持ちを払拭するように頭をぶんぶんと振る。 雨の日の深夜だけは自由にしていいのだ、そうすることで自分を維持出来るのだ、と自分に言い聞かせる。 気を取り直して食べたいものをひとしきり買い物カゴに入れて満足したのでレジへ持っていく。ああ、お腹が空いた。 お母さんの作る料理は美味しいけれど量が少ないし和食ばっかりだから物足りないんだよね。早く食べたいなあ――。 「……あれ」 ぽつりと目の前の店員がつぶやいた。それにつられて私ははじめて店員の顔を見ることになる。
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