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――そこは、白くて白い、すべてがあり何もかもがない空間。
三角座りで両膝に顔を埋めているのは、背中に純白の翼を持つ天使でした。
人間の見た目でたとえるならばまだまだ幼児といったところでしょうか。
しかし、その豊かな金髪は床に流れて、海が光を反射するように煌めいていました。
「また泣いてるの?」
そんな天使に、有翼の黒猫が近づいていきます。
右膝にすり寄ると、鳴き声の代わりにしっかりとした言葉を発しました。
「神さまになったんだから、しっかりしなきゃ」
「……神なんかじゃないもん」
くぐもった声は幼いながらに低く、熱を帯びていました。
「機嫌治して。神さまが泣くと、雨が降るんだから」
「降ればいい。知らない、人間の世界なんて、どうでもいい!」
「いや、だめだって。もうちょっと自覚をだね……」
声を荒らげた主に向かって黒猫は溜息を吐き出します。
まるで、人間の世界の代表のように。
「ボクが見てきたなかで、君はいちばんの激情型だ。ほら、見てご覧」
黒猫が顔を上げると、空間の中央であり端でもある場所に、水晶のような球体が現れました。
同時に耳を劈くような激しい雷、雨、音、音、音。
戸惑う生き物たち。
『地上』が激情に襲われている様子がまざまざと映っていました。
「君が叫んだから、夥しいほどの夕立になっているよ」
「知らない!」
「あーあーあー、もう。会話が成立していない。ほら、泣き止んだら、プリンをあげるから」
「……えっ?」
ようやく顔を上げた天使はやはりあどけなさの残る顔立ちをしています。ひときわ目立つ大きなみどり色の瞳は、泣いていたとは思えないほどちかちかと瞬いていました。
「プリン、ちょうだい。もう泣かないから」
すると球体のなかの夕立はぴたりと止み、青い空に、大きな大きな虹がかかりました。
幅は広く、色は鮮やか。
はっきり、くっきりと弧を描いています。
傘をしまった人間たちは空を見上げて、手に持っている四角い何かでしきりに虹を写しています。
「やれやれ。君がいちばん、美しい虹を生み出すね。皮肉なものだよ」
まるで人間のように、黒猫は肩を竦めてみせるのでした。
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