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明里の予感は当たった。辰巳がにこやかに牽制するような雰囲気絵を醸し出すと、灯は怪訝な表情を浮かべて辰巳をにらんだ。ふわふわとしている灯しか知らない明里は初めて見る灯の表情に少しだけぞわりとした感覚を覚えた。
「そ、その話はまだ返事してませんから!」
「そうだったね。それじゃあ行こうか。失礼するよ」
慌てて明里が止めに入ると辰巳は灯に背を向けて歩いて行こうとする。
「灯、またね!」
「……うん」
灯に簡単な挨拶だけをすると明里は辰巳の後を追いかけていった。
どうしてあそこで灯に会ってしまったのか。いつもなら会わないように気をつけていたのに少し気が緩んでいたのだろうか。
それに、辰巳もあんな風に牽制しなくたって良かったはずだ。
なぜなら灯は明里のことなど何とも思っていない。むしろ嫌われているかもしれない。
あの日、ごめんと謝られた時から向こうから連絡してくることはなかったし、話をすることもなかった。
なのにどうして?
明里の頭の中はそれだけでいっぱいだった。
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