2.廻る歯車

4/21
前へ
/78ページ
次へ
問題は灯だ。忘れてと言われてどんな返事をしていいのかわからない。  もし本当に興味がないのなら、明里を見つけても声をかけずに通り去れば良かったはずだ。  明里の心の中で一筋の希望をかすかに感じた。 『本当にバイト先の先輩だよ。今日はバイト先をやめる人の送別品を一緒に買いに行っただけなの』 書いては消してを繰り返しやっとのことでメッセージを送った。どういう風に書いても言い訳にしか見えない気がしたけれど、正直に話すしかなかった。灯には誤解されたくないという気持ちもまだ残っている。 『告白はされたけど、今はそういうこと考えてなくて。だから、』 心配しないで、と入力しようとして手を止めた。別に灯は心配してメッセージを送ってきたわけじゃない。だったらこの返事はおかしい。自意識過剰じゃないか。明里はそう考えて迷った。 「灯がなに考えてるかわかんないよ……」 カーテンを開けてみるとその向こうに電気が消えた、カーテンが閉まった部屋がある。あんなに疲れた表情をしていたからもう眠ってしまったのだろうか。そう考えて明里は最後に「気にしないで」という一言で締めて、メッセージを送信したのだった。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加