100人が本棚に入れています
本棚に追加
「裏って……」
「例えば明里の体目当てとか」
「なっ……!」
お行儀が悪いと思いながらも明里はお箸をテーブルの上に音を立てて置いた。それを灯が言うのか。二年半前にあったことを明里はまだ覚えている。
「灯が……灯がそれを言うのっ……?」
その言葉に思わず激昂しそうになる。あの日途中までしながら、謝ってやめたのはどこのどいつだ。
嬉しかったのに、灯に触られたところが熱くて、嬉しくてやめないで欲しいと思ったのに。そんなことを平然と言われて怒りと悲しみで涙が出てきそうになる。
「ごめん……」
「っ……!」
その言葉を聞きたくなかった。明里は立ち上がるとコートを持って玄関へ向かう。
「明里、その……ごめん」
追いかけてきた灯の声が背中にぶつかる。その声色が二年半前のあのときを思い出させて明里はとても惨めな気分になった。
あの日も今も、謝ることで拒絶されたような気がした。近づいた距離が開いて近づいて、また開いていくのがわかる。
「謝るくらいなら、何もしないで」
そう灯に言い放つと明里はドアを開けて灯の家を後にしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!