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「明里ー。今日の分、灯くんのところに持ってってよ」
「行かない。お母さん行ってきて」
夕食後にリビングのソファでテレビを見ているとキッチンから母親の声が聞こえてきた。それでも明里はかたくなにそこから動こうとせず声だけで返事をした。
「一昨日までは行ってくれてたじゃない。どうしたのよ」
「別に。だって置いてくるだけならお母さんでもいいじゃん」
そう言いながら大して面白くもないテレビのチャンネルをザッピングしていく。すると母親の大きなため息が聞こえてきた。
「あのね、お母さんこれからおばあちゃんのところ行かなきゃいけないの。だから明里にしか頼めないのよ、ね」
カレンダーに視線を向けると、確かに今日は母親が祖母の家に行く日だった。先月、階段から落ちて骨を折ってしまった祖母は、普段はヘルパーさんに手伝ってもらっているのだが、週に二回は母親が入浴の手伝いに行っている。
「……わかった」
そう言われてしまっては行かないわけにはいかない。明里は重い腰を上げて隣の家へと向かった。
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