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「明里ちゃん。ずっと先延ばしになってたけど……」
「はい……」
告白の返事のことだというのはすぐにわかった。辰巳の優しさに甘えて延ばしていた返事をしなければいけない。
「今日誘いに乗ってくれたってことは、前向きに捉えていいのかな?」
隣から優しい声が降ってくる。明里はどうしようと思いながら前向きという言葉に心動かされていた。灯が前に進んでいるのなら、この気持ちに、この思いに蓋をして自分も前に進まなければいけないのではないか。明里は顔を上げた。
「私……辰巳先輩と……」
「いいよ、言わなくても」
付き合いますと言おうとしたところでその先の言葉を止められた。腰をぐっと引かれると、辰巳の端正な顔が目の前にあることに気づいた。
「っいや……」
ドン、と辰巳の胸を押し返した。
何が起こったのかわからなかった。心臓がバクバクと音を立てて息が苦しくなる。
とても怖いと思った。嫌だと思った。辰巳のことは先輩として信頼しているのに、こういうことじゃないと体が拒否した。
それと同時に灯の声が頭の中に響いた。
『例えば、明里の体目当てとか』
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