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そんなことない。でも実際腰を引かれた時、辰巳も男の人だというのを実感した。あの力にねじ伏せられたらきっと抵抗することはできない。
「やっぱりね。自分の心に嘘はついちゃいけないよ」
「え……」
明里が突き飛ばした胸元をさすりながら辰巳は微笑んでいた。
「俺にキスされそうになったとき、嫌だったでしょう? それが明里ちゃんの気持ち」
「そんな、私、辰巳先輩のこと嫌いじゃ……」
「わかってるよ。でも俺はそういう対象じゃないってことだよね」
「あ……」
そうだ。辰巳先輩のことは尊敬している。でもそういう関係になりたいわけじゃなかった。それを辰巳先輩に気づかれていたことに明里は恥ずかしくなった。辰巳には隠し事はできない。
「明里ちゃんが誰かを忘れるために俺と付き合おうとしてることには気づいてたよ。それでもいいって思ってたけど……」
辰巳の手がそっと明里の頬に触れた。
「そんな風に泣かれちゃったら、やっぱり俺には無理かな」
そっとその指で涙を拭ってくれた。困ったように眉を下げて微笑む辰巳先輩はどこまでも優しかった。その優しさにまた涙が溢れてきてしまう。
「ごめ……なさ……」
「いいよ。ほら、笑って。好きな子には笑っていて欲しいから」
灯を諦める口実にしようということにも気づかれていた。たった一年違うだけなのに辰巳がとても大人に見えて、明里はただその優しさに甘えるしかなかった。
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