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辰巳に渡されたハンカチで涙を拭いながら帰り道を歩いた。結果的に辰巳の思いに答えることはできなかった。それでも最後まで優しくしてくれる辰巳には感謝の気持ちしかなかった。
「すみません、家まで送ってもらっちゃって……」
「全然。むしろこれが最初で最後だから」
「はい……。あ、ハンカチ洗って返します」
家の前まで来ると明里はぺこりと頭を下げて礼を言った。最初で最後と言われて、きっとこうして気軽に誘ってくれることもなくなるのだろうなと思うと少しさみしい気はしたけれど二度と会えなくなる訳ではない。それこそ辰巳の思いに答えられなかったのだから、それ以上望むのはお門違いだ。
「目、ちょっと腫れちゃったね。ちゃんと冷やしてね」
辰巳が明里の目元を優しく触った。
「それじゃあ、また……」
「明里っ!」
辰巳が去ろうとしたとき、大きな声が聞こえてきた。え、と思う間もなく勢いよく灯が隣の家から駆け寄ってきた。
「明里に何したんだよ!」
「えっ……」
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