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すっきりした、とばかりに爽快な笑顔を浮かべて辰巳は去っていった。思ってもいなかた辰巳の言動に明里もぽかんとしてしまった。普段からあんな挑発的な態度を取る辰巳は見たことがなくて一瞬誰かと思ってしまったぐらいだ。
でも辰巳が言っていたことがよくわからない。
そんなに好きなら二度と手を離すなという言葉。
明里に向けられた言葉ならまだしも、それを灯に向けて言った意図がわからなかった。灯には、もう他に好きな女の子がいるのになんでそんなことを言ったのだろう。そう思っていると急に手を引かれた。
「何なの、あの人……」
「え、灯っ……」
悔しそうに顔を歪めている灯を見て明里はとくんと胸が音を立てるのがわかった。今までこんな表情をしている姿を見たことはなかった。もしかしたら、もしかして妬いてくれているの、なんて的外れなことを考えてしまう。
「灯、あの……」
「ちょっと待ってて。何か用意してくるから」
連れてこられたのは灯の部屋だった。やっと解放された腕を見ると少しだけ赤くなっている。でもそれすら今の明里にとっては嬉しいものだった。さすりながら部屋の中を見渡した。この間毛布を取りに来た時には感じなかたけれど、腰を下ろすとあの頃を雰囲気が変わってないことがわかる。
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