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「それで、あいつに何かされたの?」
神妙な声色で聞かれて、明里はくすりと笑ってしまう。そんな風に心配されたら勘違いしちゃうのになぁと思いながら話し始めた。
「辰巳先輩の告白ね、断ったの。でも辰巳先輩、ずっと優しいから、申し訳なくて、涙が出てきちゃって……」
できるだけ笑みを浮かべる。すべて本当のことだ。辰巳にキスをされそうになって泣いたのは辰巳が悪いわけじゃない。自分自身の気持ちにちゃんと向き合えなかったからだ。
「本当に?」
「ほ、本当だよ」
「嘘、ついてる」
ぱっと腕をつかまれて保冷剤がごとんと音を立てて床に落ちた。目の前にいる灯はとても悔しそうな表情を浮かべていた。
「そうやって嘘をつくときに笑う癖、ずっと変わってない」
「と、もる……」
辰巳とは違った意味で灯には嘘がつけない。ずっと近くで一緒に育ってきたから、挙動一つ一つが自分のことのようにわかってしまう。今更もう隠すことなどできなくて、明里は深呼吸をすると本当のことを話した。
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