番外編 ある日の辰巳

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明里の通う大学の社会学部では卒論提出はない。というのも、卒論提出の時期が年明けということもあり、そこで気が抜けて単位を落とす人が年々増えていたからだと言う。ならば後期の授業に研究発表をしてそれを卒論相当に当てようということになっていた。そういう学部は増えているらしい。 「そういえば、灯くんとはどう? うまくいってる?」 「あ……その節は、ご迷惑をおかけしました」 「いいよいいよ。うまくいってるなら何より。それに、灯くん、よく一人でここに来てたしねぇ」 「えっ?」 「あれ、知らなかった?」 「初耳です……」 いつだったか明里が遊びに来て、と誘った時に灯は時間ができたらと答えていた。それなのにここに来ていただなんて。それに、来ていたなら明里と会っていたとしてもおかしくないはずた。 「明里ちゃんには知られたくなかったのかなぁ」 「あ、だから先輩もしかして……」 「そう。話しかけられた時に「あ、この子は」ってわかったんだよね。ちょっと面白い子だったから覚えてて」 そう笑った辰巳の口から語られてきたのは灯がここに来ていた時の様子だった。
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