1.実らなかった初恋

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あっというまに心の距離も、体の距離も離れてしまった。あんなに近くに灯の熱を感じたことが嘘だったかのように隙間風が吹いて、二年半がたってしまった。 大学三年生の秋ともなれば就職ガイダンスが始まる。灯はどんな仕事をしたいんだろう。そう思っても今の灯が何を目指しているのか明里は知らない。 スマホのメッセージアプリを開いてみても、最後にメッセージを交わしたのは一年前だ。家が隣同士、両親が知り合いということもあって、事務的なやりとりが残っているだけだ。それより前の履歴を見るたびにそっけない態度が辛くて、もう見返していない。 「って、ポジティブ、ポジティブ!」 すぐに落ち込んでしまう性格の明里はわざと口に出すと、口角をきゅっと上げて笑顔を作った。少しだけ落ち込んだ気持ち和らいでいくような気がして、バイト先への道を急ぐのだった。
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