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「俺見てないんだけど、あれだっけ?学校とかで苛められた時助けてもらったりしたんだっけ。あと事故で怪我した時におぶって医者まで連れていってくれたとか、そういうエピソード聴いたような」
「あれ、あの時ティムはまだこの家にいませんでしたっけ?」
「いたかもしれないけど、俺もあんま記憶力いい方じゃないし、小さい時のことじゃ覚えてなくても無理ないとは思うけどな」
「まあ、それもそうですね。ティムの方が僕より二つ年下ですし」
今日はどの本がいいだろうか。ルーサーは本棚の前に立ち、蔵書を吟味する。嫌なことがあった時こそ、本でも読んで空想の世界に旅立つに限るのだ。ティムと二人だからこそ、出来ることもあるのである。
「あれで、いいところもあるんですよ、お姉様。正義感も強いし、勇気があるし。……本当は僕とお姉様は、性格が反対だった方がうまくいったのかもしれませんね。お姉様と違って僕は頭でっかちで、ちっとも運動ができませんから」
ロングスカートとヒールで平然と走り回る姉とは違い、彼女より圧倒的に動きやすいはずのズボンと革靴ですぐ転ぶのがルーサーだった。神様は本当に、双子の性別を取り違えてしまったのかもしれないと思う。だからこそ、姉も姉で“女装すればおしとやかな深窓のご令嬢”に見えるらしいルーサーに、無茶な頼み事をしてくるのだろうけれど。
「運動なんかできなくてもいいだろ。お前はお前だ」
そんな勇ましい姉に、ルーサーが少なからずコンプレックスを抱いていることをティムは知っている。だからこそ、いつも少し気持ちが沈むと、彼は必ずといっていいほど欲しい言葉をくれるのだ。
「労働者階級で、両親が死んで……路頭に迷うところだった俺を助けてくれたのが、このアンヴィル家だ。ご主人様にも、俺に仕事を教えてくれた執事・メイドの先輩方にも感謝してるよ。特に、お前には。身分の低いガキだなんて、お前は最初っから馬鹿にしないで付き合ってくれた」
「身分なんて、お飾りですから。人の価値はその人の人格と実力、努力に応じて決められるべきものです」
「そんな考え方をする貴族様がいるなんて、思ってもみなかったし、俺には救いだったんだよ。……本当にありがとな。まさかここにきて、大嫌いだったはずの貴族様に友達ができるなんて思ってもみなかったんだから。ついでに」
ちらり、と彼はルーサーが持ってきた本に視線をやる。
「この俺が、文字が読めるようになるってのもな。……お前が教えてくれなきゃ、俺は本の一つも読めなくて、人生損するところだったぜ」
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