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遣らずの雨に閉じ込める
ザァザァと音を立てて、雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような雨と形容しても良いくらいの、大雨だ。
「時期的にも、夕立かなぁ」
少年の隣に居る少女は、そっと空を見上げて苦笑をしている。
委員会の会議が終って、玄関までやって来た二人を待っていたのは部活の声援でも太陽の日差しでもない。まるで、此処から一歩も出さないという意思を持っているのではないかと思える程の雫の檻。
心なしか、微かに雷の音まで聞えていた。
「そうだ。遣らずの雨って知ってる?」
「まぁ……。確か、帰ろうとする人を帰さないようにする雨だったっけ」
静かに呟く少年に対して、腕を組んで満足そうに頷く少女の姿。
そして、何かを探すように鞄を探っては顔を青ざめる。少年は、ため息をついた。少年は、傘など持っていない。どうやら、少女もそれは同じだったらしい。
「折角、相合傘っていう奴が出来ると思ったのに」
「いや、この雨じゃ普通に傘を差しても濡れるよ。素直に待った方が良いと思うけど」
「でも、早く帰って寝たいなぁって。今日の委員会、何だか疲れちゃったし」
首を回すと、ポキリと軽い音が出る。
少年は視線を少女から、空へと戻した。
「こんなに土砂降りに降ったら、言える言葉も言えないよ」
「まぁ、君の事だからどうせ此処で和歌を読もうと思いますとか言いだすんだろう。その和歌は、おそらく」
静かに顎に手を添えて、口を紡ぐ。
分かっていながらも少年はそこから先の言葉を紡ぐことはしなかった。
少女は、少年が何を言おうとしているのか理解したのだろう。少しだけ、頬を薄らと桃色に染めては中々口にしようとしない少年に対して不満を募らせたのか頬を膨らませている。
睨みつけているつもりなのだろう。
少年は横目でそれを見て笑った。
「一緒に居てほしいって言ってくれたら、そんなまどろっこしいことをしなくても一緒に居るんだけど」
「……っもう!やっぱり、私が和歌を言いたかった!答えから、言ったら意味ないじゃない!」
「意味ないわけでもないと思うけど」
頬を栗鼠のように膨らませては、全身で不満を体現して少年の胸元を軽く叩く。
「雨の檻の中に、閉じ込められたみたいだね」
「……ほら、そういうことを平然と言っちゃう」
「平然と思ったことを言う僕は、お嫌いですか?」
「その言い方は狡いと思います。……まだ、止みそうにはないから少しだけ委員会の仕事をしてから帰ろうよ。図書室の鍵を貰って、本の整理でもしならがお話しようか」
雨により掛けられた檻の中、少年少女はゆっくりと踵を返してその場から姿を消した。
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