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ネイルチップを指先で弾き、そのまま自身の手のひらに突き刺した。
わすがに傷がつき、血が滲む。
「……赤って美しいですよね」
綾は運転手の言葉に深くうなずいた。
「そうですよね。夕焼けとか。心がちぎれそうになります。あ。話が脱線しちゃいましたね。それで、そのあと土砂降りの雨が降ってきたんです。私を含めたみんなが〝祟りだ〟なんて騒いで」
ふふ、と口元を隠しながら笑う。
本当に子どもだったんだな。と、しみじみ思う。
「……祟りなんて信じていたら、こんなことを繰り返していませんよ」
チラリ、と視線を送る。
彼女で犠牲者は一体何人目になるのか。
正確な数を数えながら殺人を犯してきたわけではないから、本人にもわからない。
数などは問題ではないのだ。
その割には、誘拐し殺害してきた女たちの四肢を切り取って収集するのが好きだった。
部屋に飾られたそれらに囲まれながら飲むワインは格別だと思っている。
ぼそぼそと話す声。
チラチラと見てくる不躾な視線。
綾は段々と運転手と話すのが億劫になってきた。
仕方ない。 この話が終わったら会話も打ち切ろう。
「すぐに雨も止んで、赤色の空もすっと消えました。青い空が帰ってきたんです。あれも夕立だったのかな。もう昔のことすぎて覚えていないんですよ」
彼女に目をつけたきっかけは、路上ライブだった。
作詞作曲も自分で手掛けているらしく、特に歌詞が素晴らしいと感じていた。
「……言葉の端々に心惹かれる詞を感じます」
これは嘘偽りのない真の言葉だ。
運転手の言葉に綾は、少し意外そうな顔をした。
詩心があるだなんて褒めてもらえるとは思いもしなかった。
単純だが運転手への印象がプラスへとかわった。
「実は昔からポエムを書くのが好きなんですよ。投稿していた時期もあったんです」
彼女が素晴らしい詞を披露することは、もう二度とないだろう。
それがひどく勿体ない。
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