きみに、恋う。

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言うだけ言って、それから視線を先生のほうに先に戻した。 ばくばくと、痛いくらい心臓が鳴っていて、このまま本当に泣いちゃいそうだった。 視界に涙が滲んで、落とさないように必死に瞼に力を入れた。 篠崎の優しさを最後に知りたくなんてなかった。 うそ、ほんとうは篠崎がちょっとだけ優しさを備え持っていることは知っている。 体育で怪我をしたときは馬鹿にしたように煽っておきながら保健室についてきてくれたし、部活で先輩に怒られたときは笑いながらパックジュースをおごってくれた。 文化祭の当番がおんなじだったときに重い荷物は何も言わずに持ってくれたし、テスト前に解けなかった物理の問題を文句言いながら教えてくれた。 口では意地悪ばっか言ってくるのに、慰めるようにちょっとだけ優しさを使って私をなだめて、素直にありがとうと伝えたらそっぽを向くような男だ。 そういう少しのやさしさに、落ちてしまったのだ。 小競り合いも、痴話げんかも、くだらない話をする授業中も、好きなものを言い合うあの時間も、全部好きだった。 気づけばもう、篠崎が好きだったんだ。 「これからのみんなの将来を、先生はこの学校から応援してるからな」 気づけばホームルームは最後の終礼になっていて、委員長の言葉で全員が立ち上がる。 「気を付け、礼」 ありがとうございました、 最後まであっけなくて、すすり泣く声もどこかで聞こえてきて、わたしもそれにつられてまた泣きそうになる。 ぐっとこらえて目尻を擦れば、サユとミノが駆け寄ってきた。
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