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 改札を出た瞬間、それまで晴れてたのが嘘だったかのように、バケツをひっくり返したような大雨が降り出した。  念のために折りたたみ傘を持ってきてよかった。  鞄の底を探る。  僕の横を、サラリーマンが横切る。頭を鞄でカバーして、諦めたように走っていく。  反対側の側面では、おばさんが電話していた。 「急に大雨が降りだしちゃって……うん、迎えに来てちょうだい」  その奥に、僕と同じ歳くらいの、制服を着た女の子がいた。空を見上げながら雨宿りしていた。  傘、持ってないのかな。  雨の音と匂いが僕を惑わしたのかもしれない。その子が虹のように綺麗に見えた。  僕に勇気があれば……。  『傘、どうぞ』  なんて、言えるわけないない。名前も何も知らない女の子だぞ。僕なんかが話しかけても無視されるだけだ。  さりげなく、無言で傘を渡そうか。     ……。  いやいや。傘を渡して、僕は濡れて帰るのか、おかしいだろ。  彼女の家の方向も一緒とは限らないし、『一緒の傘に入りますか』、なんていきなり言われても迷惑だよなー。  なんと言っても、人目が多い。  ナンパ失敗だと陰口を叩かれそうだ。  別にナンパってわけじゃない。困ってる子がいたから、助けたいと思っただけだ。……と、自分に言い訳をしてみた。  女の子が腕時計を見る。  このままだと、濡れるのを我慢して、雨の中を帰ってしまう。  声をかけよう。断られたっていい。  鞄から折りたたみ傘を出し、近づいた。  緊張で吐きそうになった。心臓が飛び出しそうだった。 「あ、あのー」 「え」  女の子がびっくりして、目を大きくする。 「よかったら、傘……」  彼女の頭に傘を差しだした。 「え……」  女の子が僕のことをまじまじとみる。  時が止まったようだった。  ふと、背後からOL二人組の声が聞こえた。 「ちょうど、雨止んだね」「うん、ラッキー」  は……。  顔を上げると、雲間から太陽が覗いていた。さっきまでの大雨はすっかり止んで、雨の雫に陽光が輝いていた。  しまった。夕立だったか。  自分の顔がパッと赤くなるのが分かった。 「あ、あ、……ごめんなさい。もう、雨、止んでましたね」    傘を引っ込めようとしたとき、彼女に傘の柄を掴まれた。 「傘、入れてくださいっ!」 「え……でも、もう雨は……降ってないけど」 「日傘代わりにお願いします」  晴れやかな、眩しい笑顔で彼女は言った。  (了)
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