悲劇の勇者と名無しの聖女

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「魔王はいないんだ。もう休んでも許されるだろ」 地面に転がった勇者を見下ろして首を横に振る。 「……まだ、役目は終わっていませんよ。しっかりしてください」 どれだけ言葉を尽くそうと薄く笑うだけ。勇者は動きそうになかった。 「……もう疲れたんだ。お役目はもう十分果たした。このまま休んでもきっとお前ら以外は責めないさ」 むしろ喜ばれるかも、なんて自嘲を含んだ声で言う。 「そんなことありません!貴方は多くの人々を救った英雄です!ほら、早く立ってください!まだ魔物に怯える人達がいるんですよ!」 声を荒らげた私を怠そうに。ゆったりと細められた赤茶色の瞳が映して、すぐに逸らされた。 「お前は真面目だなぁ」 いつもと変わらない軽口を叩いて、いつもと違う笑みを浮かべる。 もう四年。傍にいたはずなのに遠くにいるような、そんな錯覚がして。縋るように勇者の手を握る。 それに少し目を見開いた勇者は、小さく息を吐いただけで手を握り返してはくれなかった。 それが悔しくて、悲しくて。腹立たしい。 「貴方が不真面目なだけで、私は普通ですよ」 「不真面目な自覚はあるけど、お前が普通ってのは納得いかないな」 「……不真面目な自覚はあったんですね」 「クソ真面目なお前に比べたら誰でも不真面目だろうよ」 真上に広がる夕暮れの空から視線をずらした勇者は、歪な顔をして笑った。
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